虹Veggieの想い
料理人だった頃に、ずっと感じていたこと
かつて私は、厨房に立ち、経営も担うオーナーシェフでした。日々、料理と向き合う中で、ずっと胸に引っかかっていた感覚があります。
「もし、こんな野菜があったら、この一皿はもっと良くなるのに」
味、色、香り、食感。ほんの少しの違いが、料理全体の完成度を左右する。けれど、現場が本当に求める野菜に、なかなか出会えない。それが料理人としての、率直な実感でした。
やがて、自分の分身のようだった店を閉じることになりました。心も体も、糸が切れたように余裕を失いました。料理から離れ、自分が何者だったのかさえ、分からなくなっていました。
土に触れて、心が空っぽになった日
廃業後、吸い寄せられるように、かつて野菜を仕入れていた生産者の畑を訪ねました。特別な目的があったわけではなく、ただ、泥にまみれて手伝いをしたかった。それだけです。
不思議なことに、土に触れている間だけは、頭の中が静かになりました。
追い詰められていた考えごとが消え、心が一度、空っぽになる感覚。私は、土に救われました。
そこにいたのは、農業歴60年を超える、80代のおばあちゃんたちでした。地域の気候や土の機嫌を、体で覚えてきた、私にとっては、畑の中で一番信頼できる人たちでした。
「この人たちの技術なら、料理人が切望する『珍しくて、質の高い野菜』を、本気で形にできる」
そう確信した瞬間、私の心に、もう一度だけ灯がともりました。
「信州ゆめクジラ農園」という8年間
私は、小規模で高齢の農業者たちに声をかけ、生産者団体「信州ゆめクジラ農園」を立ち上げました。
目指したのは、直売所での価格競争に巻き込まれる農業ではありません。プロの料理人に向けて、価値に見合った価格で、誇りを持って届ける野菜づくり。
おばあちゃんたちが、となり近所との10円20円の差に悩むのではなく、「私の野菜が、あの高級ホテルの皿を飾っているんだ」と胸を張れる場所を作ることでした。
約20名の生産者とともに、年間100種類以上の野菜やハーブを育て、8年間、ラグジュアリーホテル、レストラン、結婚式場など“プロの現場”だけに、野菜を届け続けてきました。評価してくれたのは、常に厳しい目を持った使い手たちでした。
